はじめての東ベルリン

[Unter den Linden]
東ベルリンのUnter den Linden通り

翌朝、宿の主人に朝食が出来たことを知らされ、隣の部屋に入った。応接間といった感じだが、家の人は誰もいなくて、テーブルに食事が一人分用意されている。パン、ハム、サラミにコーヒー、オレンジジュース、玉子立てに載せられて帽子まで被せてあるゆで玉子、そしてケーキまでついている。このヨーロッパ旅行の中でいちばん豪華な朝ご飯だった。

旅行中は2、3日に1回の割合で手で洗濯していたが、さすがに西ベルリンでお世話になっている家では洗濯するのも気が引けて、「地球の歩き方」に書いてあったコインランドリーへ行くことにした。

Zoologischer Garten駅の周辺では、外国人観光客が多く、しかも東ベルリンへの電車が出ているということで、ドルやDM(西ドイツマルク)から東ドイツマルクへの闇両替をしている人によく
"Change money?"
と声をかけられた。これはチェコ、ハンガリーでも同じ事だった。闇両替は正規の両替に比べてレートはいいが、犯罪は犯罪なので、とりあえずすべて断った。

駅からかなり歩くことになったが、コインランドリーはなんとか見つかった。日本によくあるコインランドリーよりもかなり大きく、数十台の洗濯機と乾燥機が並んでいるのに圧倒された。機械に直接硬貨を入れるのではなく、まず専用のメダルを販売機で買って、それを機械に入れるという方式である。

洗濯が終わって乾燥機に洗濯物を移し、乾くのを待っているとアメリカ人のおばさんに
"Do you speak English?"
と声をかけられた。おそらく洗濯物を入れるのにロンドンの大手スーパー"Marks & Spencer"のビニール袋を使っていたので英語がしゃべれると判断したのだろう。結婚した娘がベルリンに住んでいて、訪ねてきたついでにヨーロッパを旅行しているとのことだった。

洗濯が終わってから、いよいよ東ベルリンへ日帰りで行ってみることにした。昨日乗ったS-Bahnに乗り、国境を越えて東ベルリンに入って一つ目の駅、Friedlichstrasseで降りた。ホームの階段を降りると入国審査の窓口があり、行列ができていた。Hamburgから西ベルリンへ列車で来る時にもらった通過ビザ(Transitvisum)はタダだったが、実際に入国するにはパスポートにスタンプで押す形式の一日ビザが必要で、一日分5DMも取られた。

今日はとりあえず昨日西側から見たベルリンの壁とブランデンブルク門を見るのが第一の目的だ。地図を見ながら目的地へと向かった。東ベルリンは西ベルリンとは打って変わって地味な建物が多く、看板もほとんどなく、上の写真に写っているように、車が粗末である。排気ガス規制がないのか、今にも火を吹くのではないかと思われるほど白い煙をもうもうと上げながら車が走っている。建物がすすけて見えるのは排気ガスのせいではないだろうか?

東ベルリンのメインストリートであるUnter den Lindenを歩き、いよいよBrandenburg門に到着した。観光客がかなりいる。これも東ベルリンの他の建物同様、黒くすすけていたが、その後、東西ドイツ統合の際にきれいに化粧直しされたようである。

Brandenburg門の向こうのベルリンの壁は、西側から見た時とは対照的に落書きもないし、けずられてもいなかった。Brandenburg門の周辺以外は金網で仕切られていて立ち入り禁止区域のようになっていて、今でもこの中に入ると射殺されるのではないかと思われるような雰囲気だった。この壁を越えようとして果たして何人の東ドイツの人々が殺されたのだろうと思うと心が痛んだ。

西ベルリンへ戻り、Zoologischer Gartenで降りて駅前の土産物店のようなところで日本の友達に送るために絵はがきを選んでいると、おそらく10代後半くらいと思われるドイツ人の女の子がやってきて、少しはにかみながら、「r」を巻き舌で発音する南ドイツなまりで
"Hast du eine Mark fur mich?"(1マルクもらえないかしら?)
と言われた。それほどみすぼらしい格好もしていないので乞食ではないだろうし、脅迫されているわけでもないし、ひょっとしてドイツ式の逆ナンパだろうかとか思いながら、こちらもそれほどお金を持っているわけではないので、
"Nein."
と首を振ったら、少し寂しそうな顔をしてどこかへ行ってしまった。

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